9.中軽井沢散歩 中軽井沢というリゾート

現在、中軽井沢と呼ばれる地区は、平安時代、長倉と呼ばれ、馬の産地であるとともに、交通の要衝でもあり、馬の沓を掛けて道しるべとしたことから沓掛(くつかけ)とも呼ばれるようになったようです。
写真は、しなの鉄道の中軽井沢駅です。この中軽井沢駅は、明治43年信越線の沓掛駅として開業し、昭和31年に中軽井沢駅に改称し、2012年に現在の駅舎が完成したようです。
長倉は、平安朝初期に設定された官牧の佐久三牧(望月・塩野・長倉)の一つであり、朝延への貢馬の他、駅馬役馬を産出していたようです。
写真は、「駒飼いの土手」と伝えられる長倉の牧です。
江戸時代になると、長倉は中山道の沓掛宿として開かれ、沓掛宿は軽井沢宿(今の旧軽井沢)、追分宿(今の追分)とともに、「浅間根腰の三宿」とよばれ、殷賑を極めたようです。
その中山道から千ヶ滝地区へ上がる通りに、「ロイヤルプリンス通り」と呼ばれる道があります。
写真は、そのロイヤルプリンス通りにある長倉カフェ
ロイヤルプリンス通りを上ると、現在は営業していない千ヶ滝プリンスホテルの跡がありました。
千ヶ滝プリンスホテルは、朝香宮の沓掛別邸跡に建てられ、買収した西武グループの創業者の堤康次郎が皇室の為に用意したといわれています。「ロイヤルプリンス通り」の名の由来は千ヶ滝プリンスホテルがあったことによるようですね。
写真は、かつての千ヶ滝プリンスホテルの門扉
西武グループの創業者である堤康次郎は、大正4年に早大の学生服姿で沓掛村一帯の土地を購入して別荘地開発に着手したそうです。隣の軽井沢が別荘地として発展していく中、沓掛村は土地を売却し、堤は別荘地の分譲を開始し、不動産事業を開始しました。その後、堤は剛腕な手法で軽井沢や箱根などを開発していきます。
千ヶ滝プリンスホテルは、敗戦に伴い行われた皇籍離脱後、堤が旧皇族の土地を安価で購入し、その土地に開業したホテルのひとつであり、1964年からは一般市民の利用は出来なくなり、事実上、皇室専用施設となったようです。1990年8月に天皇皇后が静養の為訪れたのが最後であり、その後メンテナンスだけが行われていたようです。また、西武グループの「プリンスホテル」の名はこの千ヶ滝プリンスホテルに由来するそうです。
写真は、かつての軽井沢スケートセンター(現在の軽井沢千ヶ滝温泉)の近くにある堤康次郎の像
康次郎の後継者となった三男・義明は、千ヶ滝地区の開発を進め、スケートセンター、テニスコート、ショッピングセンターなどを建設し、中軽井沢をリゾートとして発展させていきます。しかし、バブルの崩壊後、平成不況期の中、リゾートブームが下降線をたどり、また西武鉄道の不祥事などにより、ここ中軽井沢の千ヶ滝地区も急速に衰退していきます。
写真は、かつての西武(千ヶ滝)ショッピングセンターの階段、この付近にあったテニスコートの跡地は、現在、星のグループの駐車場になっています。
このように、浅間山の麓に広がる千ヶ滝地区は、西武グループにより利益を優先させたリゾート開発が行われ、時代の流れとともに衰退してきました。
千ヶ滝地区から望む雄大な浅間山
夏も涼しい千ヶ滝
この千ヶ滝地区には、康次郎の次男であり、実業家であるとともに文化人としても知られる堤清二によって設立・移転されたセゾン現代美術館があります。
堤清二は、西武グループの流通部門を承継し、西武セゾン文化の興隆と崩壊を招いた詩人と評価されましたが、1970年代から1980年代にかけてひとつの文化を築いたのは事実でしょう。
写真は、セゾン現代美術館の庭園
また、大正時代の堤康次郎による開発とほぼ同時期に、ここ中軽井沢は後の星野リゾートにより温泉が掘削され、星野温泉として旅館の営業が開始されます。星野リゾートは、1965年に軽井沢高原教会、2005年に星のや軽井沢、2009年にハルニレテラス等を開設し、リゾートエリアを形成します。
星のリゾートは、近年、「界」、「リゾナーレ」等のブランドで各地においてリゾート開発を急速に行っていますので、この中軽井沢が今後どのように開発されて行くのかが心配になってしまいます。
写真は、湯川に沿って商業施設が集まるハルニレテラス
山林の中に佇む軽井沢高原教会
西武グループと星野リゾートによりリゾートとして開発された中軽井沢は、今後も開発が進められると思いますが、利益が優先された開発ではなく、自然と共存した開発が行われることを切望します。

(追)
堤康次郎は、千ヶ滝地区の他にも、現在の南軽井沢(発地地区)の原野や湿地を買収し、開発を行いました。その地は、現在数多くのゴルフ場やショッピングプラザなどになっています。
写真は、晴山ゴルフコース 「晴山」の名は、康次郎が土地を買収した東武鉄道の創業者である根津嘉一郎の茶人としての「青山」の号に由来するそうです。
西武グループは、数多くの旧皇族等の土地を買収し、ホテルを建設しています。例えば、東京プリンスホテル(徳川家霊廟跡)、品川プリンスホテル(毛利公爵邸跡)、高輪プリンスホテル貴賓館(旧竹田宮邸跡)、新高輪プリンスホテル(旧北白川宮邸跡)、横浜プリンスホテル貴賓館(東伏見宮別邸跡)、旧赤坂プリンスホテル旧館(李王家邸跡)などが挙げられます。
写真は、高輪プリンスホテル貴賓館
また、現在の東京都庭園美術館は、旧朝霞宮邸であり、1970年代はプリンスホテルの本社として使用されていたようです。
写真は、東京都庭園美術館