13.冥界散歩 -京都・六道の辻-

かつて、京都の鴨川の六条河原や三条河原に処刑場があり、また鴨川より東の鳥辺野には平安京の墓所があったようです。

その鴨川から少し東にこの世とあの世の境とされる六道の辻と呼ばれる場所があります。

写真はその六道の辻にある六道珍皇寺です。
六条河原の処刑場は、弁慶と牛若丸が決闘を行ったと伝わる五条大橋の南の現在の正面橋の付近だったようです。

写真は正面橋と鴨川です。
清水寺近くの鳥辺野には現在もたくさんのお墓があります。

写真は鳥辺野の墓地です。
「六道」とは仏教の教義でいう地獄道(じごく)・餓鬼道(がき)・畜生道(ちくしょう)・修羅(阿修羅)道(しゅら)・人道(人間)・天道の六種の冥界をいい、人は因果応報(いんがおうほう)により、死後はこの六道を輪廻転生(りんねてんせい)する(生死を繰返しながら流転する)といわれているようです。

そして、この六道の分岐点、いわゆるこの世とあの世の境(さかい)の辻が、冥界への入口と信じられてきたようです。
六道の辻にある六道珍皇寺には、とても興味深い「十界曼荼羅図」が展示されていました。

「十界曼荼羅図」は、悟りを開き、煩悩のない四聖(声聞、縁覚、菩薩、仏)と、苦しみに満ちた六道(天、人、修羅、畜生、餓鬼、地獄)から構成された「十界」を表しているそうです。

「十界曼荼羅図」の全体はこのような感じです。
「十界曼荼羅図」の白い帯状の霞より上部は、赤と白で彩色された日輪と月輪のもと、大きな山が画面を占め、天道と人道が表されています。

下の画面は山の右側と赤い日輪を拡大したものです。

とても見にくいですが、下図の右下には、桶の中で産湯をつかう赤ん坊と産婆の姿が見え、その左上には紅い衣をまとってハイハイする乳児が見えます。

この赤ちゃんは鳥居をくぐり、やがて少年から青年へと成長し、山の斜面を登っていきます。山の頂の少し前、扇を持ち振り返る女性とそれに応える男性がおり、この男性が結婚したことを表わしているようです。
下の画面は山の左側と白い月輪を拡大したものです。

山の頂で人生を折り返し、夫婦は坂を下りながら、やがて杖をつくなど老いていきます。

山のふもとに到達すると、生まれた時と同じように鳥居をくぐり、死を迎えたことを表しているようです。
下の画面の「十界曼荼羅図」の白い帯状の霞より下部は、修羅、畜生、餓鬼、地獄が表されています。

下の画面左上では、三途の川を渡る様子が描かれています。

さらに画面上部の中央のやや左の「業秤」によって生前の罪の重さが計られ、大抵の人は有罪判決を受け、苦を受ける身となるようです。

そこで用意されているのは四つの世界であり、修羅道(常に戦いをしている)、餓鬼道(常に空腹でありながら何も食べることが出来ない)、畜生道(動物として苦役を受ける)、そして血の海の地獄道です。
また、六道珍皇寺には、小野篁(おののたかむら)伝説があります。

小野篁(802年〜852年)は、嵯峨天皇につかえた平安初期の官僚で、武芸にも秀で、また学者・詩人・歌人としても知られていたようです。

なぜか小野篁は閻魔王宮の役人ともいわれ、昼は朝廷に出仕し、夜は閻魔庁につとめていたという奇怪な伝説があるようです。
下の写真は閻魔大王像と篁像が安置されている閻魔・篁堂です。
本堂背後には小さな庭園があります。
その庭園内には、篁が冥土へ通うのに使ったという冥土通いの井戸がありました。
篁は夜な夜な冥土通いの井戸から冥土に通い、閻魔大王を補佐していたようです。

下の写真は冥土通いの井戸です。
このような篁伝説は、「今昔物語」等にも書かれていたことにより、平安末期頃には篁が閻魔庁における第二の冥官であったとする伝説がすでに語り伝えられていたようですね。

また、六道珍皇寺近くの六道の辻には、幽霊子育飴を売る「みなとや幽霊子育飴本舗」がありました。
幽霊子育飴の伝説は以下のようです。

「慶長四年のある夜のこと、飴屋の主人が店じまいをしていると、あまり見かけない青白い顔をした女が「飴を1文売って欲しい」と店を訪れます。
夜遅くの来店と女性の雰囲気に妙な胸騒ぎを感じつつも、主人は女に飴を売ります。
次の日、また次の日も女は、夜に飴を買いに来て、主人は飴を売ります。
女性が店を訪れ、7晩がたったあくる日の朝。
主人が売り上げを勘定しようとすると、銭箱の中に1枚の樒(しきみ)の葉が入っていて、不思議に思い、例の女が怪しいと考えます。
その日の夜、また女が飴を買いに来た時に、主人は後をつけることにしました。後を追ってみると、女は墓場へと歩いて行きくではありませんか。
そして1つの墓の前まで来た所で、女の姿がスッと消えたかと思うと、墓の中から赤ん坊の泣き声が聞こえます。
主人が墓を掘り返すと、生きた赤ん坊が母親と同じ棺の中にいました。
埋葬後に出産した女が幽霊となって、三途の川の渡し賃である六文銭を使って飴を買い、7日目からは、お供えの樒の葉をお金に変えて飴を買っていた。」
これで冥界散歩を終わります。